痔ろう(あな痔)とは
痔ろうは、肛門または直腸内部にできた感染が原因で、肛門の周りにトンネルができた状態です。肛門の皮膚表面に向かってトンネルが出来た状態です。30代から50代の男性に多く見られます。肛門周囲に膿がたまる肛門周囲膿瘍として見つかることが多く、痛み、不快感、持続的な排膿などの症状で見つかることが多いです。
肛門周囲膿瘍は、膿が体外に出てしまえば症状は改善されますが、破裂せずに膿がたまった状況が続くと、激しい痛みだけでなく高熱が出るようになります。こうした状態を放置すると敗血症やショックなど生命に危険が及ぶ重篤な状況に陥ることもあるので、速やかに専門医療機関を受診して下さい。
肛門エコー検査などを行い、麻酔下に皮膚を切開し、膿を出す処置(切開排膿術)が必要となります。切開排膿術で一旦症状は落ち着きますが、肛門内と皮膚をつなぐトンネルは残ることが多く、放置していると化膿を繰り返してトンネルが複雑化し、肛門機能にダメージを与える可能性があります。また、まれにですががん化することもありますので、専門医療機関を早めに受診し、診察を受ける必要があります。
痔ろうの原因
主な原因は肛門腺の感染です。通常、肛門腺は肛門の内側に位置し、腺からの分泌物が肛門を潤す役割を果たしています。しかし、これらの腺が便などの原因で詰まることや、感染が発生し、膿が溜まることがあります。通常、便が入っても健康な状態であれば感染を起こしませんが、免疫力が落ちていると細菌が繁殖し、感染が起きて肛門周囲膿瘍を発症します。
肛門周囲膿瘍が進行して膿が管状のトンネルを作り、皮膚に出口を作ってしまうと痔ろうとなります。
痔ろう・肛門周囲膿瘍の症状
よくある症状
- 肛門周囲の腫れや痛み
- 膿や血液の排出
- 皮膚の感染
- かゆみや不快感
- 発熱(38℃以上)
痔ろうの治療
手術前に肛門エコー検査を行います
膿が溜まっている肛門周囲膿瘍の状態の場合は、まず切開して膿を排出する必要があります。膿がどの部分に貯留しているか、量はどの程度溜まっているか評価するために肛門エコーという特殊なエコー機器を用いての評価が必要になります。膿の貯留位置により局所麻酔や腰椎麻酔を選択し、治療を行います。肛門エコー検査をせずに処置を行うと不十分治療になることがあり、再治療が必要になることがあります。
そのため痔ろうの手術前には、肛門エコー検査が必須となります。肛門エコー検査は肛門専用の特殊な機器を用いてトンネルの走行を確認するもので、日本でも限られた高度な肛門診療施設で扱っているものになります。エコー検査せずに手術を行うと再発率が高くなります。当院では最新の肛門エコー機器を用意し、処置前にしっかりと検査を行い、確実な治療をおこなうことを心がけています。
痔ろうは手術でしか治せません
痔ろうは手術でしか治すことができません。痔ろうの手術では、瘻管の長さ、深さ、位置、枝分かれの状態、数などに適した手法を選択する必要があります。そして実際の手術では確実に原発巣まで切除することが求められるため、繊細で正確な技術、経験、知識を持った医師に相談することが重要です。
当院では、術前に肛門エコー検査で評価を行い、不十分な場合はMRI検査までしっかりと行い手術に臨みます。痔ろうの手術を数多く行ってきた専門医が、その経験をもとに手術を行っています。基本は日帰り手術で行いますが、入院治療が必要な場合は川崎市立川崎病院の外科と連携をとり、治療にあたります。
大腸カメラ検査が必要な場合があります
痔ろうの原因として、腸の炎症の病気が潜んでいることがあります。術前診察の結果にもよりますが、手術前に大腸内視鏡検査を推奨することがあります。
痔ろうの手術
瘻管切開解放術(lay open法)
背中側(後方)の痔ろうや浅い痔瘻の際に行う手法です。この場合は括約筋を多少切開しても機能的に問題が起こりにくいとされています。
術後の痛みが少ないことも特徴で、再発率が約1~2%とかなり低くなっている根治性が高い治療です。
シートン法
瘻管(トンネル)に医療用の輪ゴムや紐を通し、少しずつ縛っていき、時間をかけて(2~3か月)瘻管および括約筋を切開する方法です。ゆっくり少しずつ切開するため、括約筋は切離と治癒が同時に進行し、肛門機能へのダメージが最小限に抑えられます。肛門の変形が少ないという利点があります。
治療期間が長いことが欠点です。治療中は外来診察時に何度か輪ゴム(あるいは紐)を締め直す必要があり、その際に多少の痛みや違和感が生じることがあります。輪ゴムが入っていても日常生活は可能です。
括約筋温存術(くりぬき法)
トンネル状の瘻管をくりぬき、原発口(トンネルの入口)を閉鎖する手法です。括約筋が切断されないため、肛門機能の温存に優れています。前方(お腹側)や側方の痔ろうに行われる術式です。
痔ろうの手術費用
痔ろうの治療は健康保険や国民健康保険が適用されます。症状などにより異なります。こちらでは目安となる金額をご紹介します。
3割負担の場合の費用です。約20,000~約50,000円
痔ろう予防
- 肛門周辺を清潔に保つことが重要です。
- 食物繊維を多く含む食事や十分な水分を摂取し、便秘や下痢を避けることも効果的です。
日常生活の忙しさや痔の診察を受けるのが「恥ずかしい」という気持ちから、なかなか受診に踏み切れない方もいるかもしれません。当クリニックでは複数の診療科を標榜しており、肛門科の受診と分からないようにしています。
また、看護師立ち会いの元、個室で診察をおこなっております。診察の体勢や声かけなどに十分配慮し、プライバシーを確保し、安心して診察を受けていただけるよう工夫しています。