ピロリ菌感染症とは
胃粘膜の中に生息する細菌であり、一般的には「ピロリ」、または「ピロリ菌」と呼ばれ、これによって発症する感染症をピロリ菌感染症と呼びます。
ピロリ菌が胃に生息することで発症する主な疾患は、胃・十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がんなどです。特に、胃がんの原因の大半は、ピロリ菌感染で起こる慢性萎縮性胃炎によるものだと分かっています。また、ピロリ菌は十二指腸や胃に侵入すると生息し続けるため、胃・十二指腸潰瘍を発症した方は繰り返し発症します。
しかし適切に除菌療法を実施すれば高確率で駆除でき、胃・十二指腸潰瘍を発症しにくくなり、胃がんの発症も防ぐことが期待できます。
以前は、「血小板減少性紫斑病」、「胃MALTリンパ腫」、「早期胃がんの内視鏡治療後」、「胃・十二指腸潰瘍」の4つのみが、保険適用による除菌療法の対象でした。しかし、2013年に慢性胃炎に対しても保険を使って除菌療法を実施できるようになり、以前に比べてより多くの方がピロリ菌除菌治療を行えるようになってきています。
ピロリ菌感染症の症状
感染しても目立った症状が現れにくいことがピロリ菌の1つの特徴です。これは胃粘膜には痛みを感じる神経がないためですが、無症状でも胃粘膜にピロリ菌が生息し続けると、少しずつダメージを受けて慢性胃炎を発症します。慢性胃炎が起こると、胃粘膜が胃がんを発症しやすい腸上皮化生に変異します。このように、ピロリ菌をそのままにしておくと、胃に関する数多くの疾患の発症に繋がるため、早期治療が重要です。
ピロリ菌感染症の原因
感染したことを認識できていない方と同じ箸を使って食事をしたり、幼い子どもに噛んで柔らかくした離乳食を食べさせたり、衛生面で問題のある水を飲んだりすることが、ピロリ菌に感染する代表的な原因です。このように幼い時期の環境が影響するため、5歳頃までには感染すると言われています。
現在は水道インフラが整えられ、生活環境が著しく変わってきたため、新たに感染する方は急速に減ってきています。しかし、50歳以上の方は、当時の生活環境が影響し、年齢が上がるほど感染率が高くなっているというデータがあります。
ピロリ菌に感染すると生涯に渡って悪い影響が出続けることが多いため、40歳を迎えたら症状があってもなくても内視鏡検査やピロリ菌検査を行うのがお勧めです。
ピロリ菌感染症の検査
ピロリ菌の感染有無を判定する検査には、胃カメラを用いる手法と胃カメラを用いない手法に分けられます。各々の検査の内容を以下で説明します。
胃カメラ(内視鏡)を用いる検査法
胃カメラ検査で胃粘膜を部分的に切り取り、感染しているかどうか判断します。
培養法
切り取った組織を培養し、ピロリ菌に感染しているかチェックします。一番精度が高い手法ですが、結果が判明するまで約1週間必要なのがデメリットで、基本的に実施されていません。
鏡検法
切り取った組織をホルマリンで固定し、顕微鏡でチェックします。
迅速ウレアーゼ試験
切り取った組織を特別な試薬に投入し、色調の変化を観察してピロリ菌をチェックします。結果はすぐに出ます。
胃カメラ(内視鏡)を用いない方法
ピロリ菌の感染有無は胃自体をチェックしなくても、便や尿、血液などからチェックできます。容易にできる点がメリットですが、培養法と比較して精度が低いことがデメリットです。
尿素呼気試験
診断薬を摂取後、風船に息を吹き込み、吐いた息の成分をチェックして胃内ピロリ菌が潜んでないかチェックします。
当院では最新の機器を導入しており、その場でピロリ菌感染の有無を確認することが可能です。余計な胃粘膜の切除が必要ないため、身体に優しい検査になります。
血清抗体および尿中抗体法
ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌に対抗して体内で抗体が産生されます。尿や血液から抗体があるかどうかチェックし、ピロリ菌の感染有無を調べます。
便中抗原法
ピロリ菌は胃粘膜に感染しますが、一部は便に含まれて排泄されます。そのため、便中のピロリ菌の有無をチェックし、感染しているかどうかを判断します。
保険を使ってこれらの検査を行う場合、はじめに胃カメラ検査を行い、胃炎や胃がんを発症していないかをチェックすることが必須となります。
ピロリ菌感染症の治療法
検査を受けてピロリ菌陽性と判明した場合、抗生物質の内服によってピロリ菌を除菌していきます。抗生物質2種類に加えて胃酸分泌薬1種類の計3種類のお薬を、1週間程度医師の指示に従って毎日飲んで頂きます。これを1次除菌と言い、除菌治療から約2ヶ月以上過ぎてからピロリ菌の除菌に成功しているかどうかチェックします。
しっかり一次除菌に取り組むことで8〜9割の高確率でピロリ菌を駆除できます。
ただしピロリ菌を除菌できたからといって胃がんの発症リスクが0になったわけではないです。ピロリ菌の除菌後もこまめに胃をチェックし、胃がんなどの様々な胃の疾患を防ぎましょう。